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クロスボーダーM&Aの実務 (3)-財務DDの具体的な進め方(後半)
コラム
2021.04.07
クロスボーダーM&Aの実務 (3)-財務DDの具体的な進め方(後半)

 前回(※)は、日系企業によるクロスボーダーM&Aにおける「財務DDの具体的な進め方(前半)」として、調査範囲、調査チームの編成、調査方法等について解説した。第3回目となる本稿では、「財務DDの具体的な進め方(後半)」として、調査の過程で検出された事項の取扱い、近年クロスボーダーM&Aで活用されている表明保証保険等について解説を行う。

 なお、本連載コンテンツは、CaN International Groupが執筆した書籍「アジア進出企業の会計・税務 事業展開における実務マニュアル(清文社)」から抜粋している。
※本稿末尾の「関連記事」参照

(5) 調査報告における検出事項の取扱い

 財務DDによって検出された事項は、正常収益力に関する事項、実態純資産に関する事項、キャッシュ・フローや事業計画に関する事項、および将来の事業に影響を与える事項に分類し、買い手企業とFA等の専門家との間でその取扱いについて検討を行い、対象会社との交渉材料とする。

 定量的事項は、一般的に買収価格の交渉やストラクチャーの決定に影響を与えることが多い。一方、定性的事項は、重要顧客との間のチェンジ・オブ・コントロール条項(M&A等で支配株主の異動があった場合に契約内容に何らかの制限がかかるまたは解約となる条項)等、対象会社の今後の事業に与える影響に応じて、解決策を事前に売り手と協議しておく必要がある。また、場合によっては、株式譲渡契約のクロージング条項や表明保証条項で手当てすることを交渉する必要がある。

(6) 表明保証保険

 株式譲渡契約において、表明保証条項は最も重要な条項のひとつである。表明保証条項とは、契約が目的とする取引に関連する特定の事実について、契約当事者に当該事実が真実であることを表明させるものであり、英文契約書ではRepresentations and Warrantiesと記載される。表明保証に違反した場合、相手方が当該契約の解除、損害賠償等の請求を可能とさせる補償条項が契約書に規定されていることを前提に、その内容に基づいて補償が行われることとなる。

 クロスボーダーM&Aでは、DDを実施したとしても潜在的リスクが把握しきれずに、クロージング後に表明保証違反が問題となる事例が日本と比較して多い。しかし、表明保証違反リスクが高いと想定される場合であっても、エスクロー、いわゆる売買代金の一部を金融機関等の第三者に一定期間預託しておくことの了承を売り手から得られる可能性は高くない。

 そのような状況において、クロスボーダーM&Aにおいて表明保証保険の利用が注目されている。表明保証保険とは、表明保証違反に起因して発生する経済的損失を被保険者に対して補償する保険であり、北米では5割、欧州では3割以上のM&A案件で利用されている。近年は、日本国内の中小規模案件に特化した商品も販売されている。

 

① 表明保証保険の補償率と保険料率の相場

 近年の表明保証保険による補償範囲の平均水準は、買収対象企業の価値の15~35%程度となっている。保険料は取引毎に異なるが、対象会社の所在国や業種、保険の適用範囲と免責の内容等が保険料の算定に影響を与える。実務上は、補償額の1.5~3.5%程度となることが多い。なお、保険料以外に、保険会社の引受審査にかかる費用が別途発生することに留意する必要がある。           

 

② 表明保証保険のメリット

表明保証保険には買い手、売り手の双方に次のようなメリットがある。

 

買い手にとっての主なメリット

・表明保証違反に基づく補償請求時に、売り手の資金難、売り手が多数である、海外に所在している等で、補償金の回収が難しい場合があるが、表明保証保険を利用することで補償金を確実に受けられる。

・入札形式の案件である場合、売り手の表明保証責任を限定する対策として表明保証保険を購入することを提案することで、売り手にとって魅力的な入札提案を行うことができる。

・オーナー企業の買収の場合で、買収後も売り手が経営者として社内にとどまる場合、売り手に補償責任を追及すると関係が悪化することがあるが、表明保証保険を利用して保険会社から補償してもらうことで売り手と良好な関係を維持できる。

・買収資金を金融機関等からの借入で調達する場合、金融機関の与信審査における説明資料として有益である。

 

売り手にとっての主なメリット

・将来の表明保証違反の補償リスクから解放されるため、買い手と売り手との間の表明保証及び補償責任の範囲に関する交渉が円滑に進むことが期待される。これは、買い手側にとってのメリットでもある。

・買収対価の分割払いやエスクロー等を回避し、株式買収対価の全額を受け取ることが可能になる。

 

③ 表明保証保険を利用する際の留意点

 表明保証保険について、上記のように買い手、売り手双方にとってメリットがあるが、免責事項、時間的・経済的な負担に係る事項、言語に係る事項、保険金の税務上の取扱い等、次のように留意すべき事項も多い。

・免責事項

 事前に開示されていた表明保証違反、クロージング以前に知っていた事実または状況で表明保証違反のおそれがあると合理的に予見し得た表明保証違反、予測、計画等の将来事項についての表明保証違反等については、一般的に表明保証保険の対象とならない。

 

・時間的な負担

 保険会社への初回コンタクトから保険契約の締結までに、1ケ月程度かかることもあり、対象会社との交渉期間にも影響を与える可能性がある。また、保険会社による引受審査の中で、保険会社から株式譲渡契約書の内容に修正要望が入ることもあり、当事者間の交渉が複雑化したり、交渉の遅延が発生したりする可能性もある。

 

・経済的な負担

 保険契約の締結に至らなかった場合であっても、表明保証保険の条件設定のため保険会社の審査に必要となる弁護士等の費用については、引受審査を申し込んだ者が負担することになり、経済的負担が増す。

 

・言語

 引受審査は海外で行われることがほとんどである。そのため、保険会社との質疑や電話会議等のインタビューセッションは英語によって行われることが多い。また、DDレポートや株式譲渡契約書も、通常、英語で作成されることが求められる。

 

・保険金の税務上の取扱い

 被保険者の所在国における保険金の税務上の取り扱いを調査する。保険金が課税所得として益金に算入される場合、税務コストを考慮した保険金の手取り額を算出することによって、保険の目的が十分に達成されているか否かを事前に検討する。

(7) PMIを見据えて

 買い手企業は、財務DDによって深めた対象会社に対する理解をもとに、当該M&Aが自社の経営戦略と整合していることを確認し、買収後の対象会社の事業運営に係るイメージを関係者間で共有する。特に、買い手企業の事業責任者と買収後も継続して残る対象会社の経営陣の間で、統合後の事業計画に対してコミットメントを醸成することが重要である。

 なお、報告書の検出事項については、買収後の経営課題として対応が必要な事象もあるため、統合後の事業計画には当該課題についての対応策が織り込まれていなければならない。

 

★関連記事★

前回の記事はこちら:クロスボーダーM&Aの実務 (2)-財務DDの具体的な進め方(前半)

第1回はこちら   :クロスボーダーM&Aの実務 (1)-近年のクロスボーダーM&A のトレンド


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