前回は、日系企業によるクロスボーダーM&Aにおける「財務DDの具体的な進め方(後半)」として、調査報告における検出事項の取扱い、表明保証保険等について解説した。第4回目となる本稿では、日本親会社におけるDD費用等の会計・税務処理について解説を行う。
なお、本連載コンテンツは、CaN International Groupが執筆した書籍「アジア進出企業の会計・税務 事業展開における実務マニュアル(清文社)」から抜粋している。
DD費用等の会計・税務上の処理方法
他社を買収する際には、DD費用をはじめ取得に関連して様々な費用が発生する。当該取得に関連する費用に関しては、会計および税務上の取扱いにそれぞれ留意する必要がある。なお、ここでは、一般的によくみられる日本の親会社が海外子会社株式を直接取得するケースを想定している。
(1) 単体決算での会計・税務上の取扱い
会計上、取得における付随費用は、取得価額に含めることとされている(金融商品会計に関する実務指針56項)。
税務上、株式等を取得した場合、その購入の代価に加えて、購入手数料、その他当該株式等の購入のために要した費用がある場合には、その費用の額は取得価額に含まれるものとされている(法令119①)。実務では株式の取得に関連して様々な費用が発生するため、費用処理すべきか、取得原価に含めるべきかについての判断にあたって迷うケースも散見され、税務調査において指摘されやすい論点の一つとなっている。
考え方の一つとして、M&Aに関連して発生した各種費用が、株式の取得のために要した費用であるかどうかの決定は、投資の意思決定のタイミング以前か以降かによって判断するというものがある。この考え方によると、投資の意思決定を行うために実施するDD費用は損金となり、意思決定を行った後に実施するDD費用は株式取得価額に含まれることとなる。
しかし、実務上、投資の意思決定のタイミングは明確でないことも多いため、損金処理したものに関しては、契約の中で業務範囲を明確化することや、取締役会の議事録を残すことによって税務当局に説明できるようにしておくことが重要である。
(2) 連結財務諸表上の取扱い
外部のアドバイザー等に支払った特定の報酬・手数料等といった取得関連費用は、発生した事業年度の費用として処理し(企業結合会計基準26項)、主要な取得関連費用の内容および金額は注記することが求められる(企業結合会計基準49項(3)④)。
当該取扱いは、国際的な会計基準に基づく財務諸表との比較可能性を改善するといった観点や、取得関連費用のどこまでを取得原価の範囲とするかという実務上の問題点を解消するといった観点から、平成 25 年の会計基準の改正において、定められたものであり、改正前はこのような株式の取得関連費用は取得原価に含まれていた。
なお、持分法適用会社の株式を取得した場合には、連結財務諸表上も個別財務諸表と同様に株式の取得原価に付随費用を含むことになる点に留意が必要である。
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前回の記事はこちら:クロスボーダーM&Aの実務 (3)-財務DDの具体的な進め方(後半)
続きはこちら :クロスボーダーM&Aの実務 (5)-会社概要の把握