前回(※)は、日系企業によるクロスボーダーM&Aにおける損益計算項目のうち、売上原価の分析に係る留意点について解説した。
第9回となる本稿では損益計算書項目のうち、第7回、第8回で解説した売上高、売上原価以外の費目、関連当事者取引、損益計算書項目における検出事項の取扱いについて解説を行う。
なお、本連載コンテンツは、CaN International Groupが執筆した書籍「アジア進出企業の会計・税務 事業展開における実務マニュアル(清文社)」から抜粋、編集している。
※本稿末尾の「関連記事」参照
(1) 販売費及び一般管理費
販売費及び一般管理費の構成は、対象会社のビジネスモデルとバリューチェーンの観点から把握することが重要である。経営者関連の交際費といった事業と関連しない費目も販売費及び一般管理費の区分で処理されていることが多いため、費目および金額を把握し、M&A実行後の取扱いに留意しつつ、正常収益力分析を行う必要がある。
また、売上原価と合わせて、販売費及び一般管理費の各費目について変動費と固定費に分解し、損益分岐点の分析を行う。対象会社の費用構造を理解し、損益分岐点を把握することで、M&A後にクロスセルによる売上高増加、原価改善、固定費削減等の各種施策を実行した際の損益計画をより精緻に策定することができる。
(2) 営業外・特別損益
営業外損益・特別損益の項目は、内容を把握し、経常的項目か非経常的項目かを理解することが必要である。経常的か非経常的であるかの判断は対象会社のビジネスモデルに即して検討を行う。非経常的に発生した費目については、正常収益力を分析する際に考慮することとなる。
なお、現地の会計基準に準拠して財務諸表が作成されている場合、日本基準と異なり、営業外損益、特別損益の区分がないことが一般的であるため、DDにおいて当該項目を把握する必要があることには留意されたい。
(3) 関連当事者取引
対象会社が行っている関連当事者取引を洗い出すことによって、取引の実在性、経済的合理性や、価格等の取引条件の合理性等を検討する。特に取引価格については、移転価格税制の観点からも検討されたい。
関連当事者取引は、M&A実行後の取引継続の有無、今後の取引条件について確認し、スタンドアローン・イシューへの対応も検討する。スタンドアローン・イシューとは、M&Aの実行によって、対象会社及びその事業が企業グループから離脱することに伴い発生する事業運営や、業績に影響を及ぼす問題全般のことである。
(4) 検出事項の取扱い
損益計算書項目に係る検出事項は、主として企業価値算定におけるDCF法の基礎となる事業計画分析、キャッシュ・フロー分析、運転資本分析、資本的支出分析や乗数法(マルチプル法)の計算基礎に影響を与えることが多い。そのため、会計上の段階損益である売上高・売上総利益・税引前利益およびEBITDA等に与える影響については、調整内容と調整後の金額を明らかにする必要がある。
★関連記事★
前回の記事はこちら:クロスボーダーM&Aの実務 (8)-損益計算書項目 (3)売上原価分析の留意点
続きはこちら :クロスボーダーM&Aの実務 (10)-株式価値算定に係る留意事項