【開催レポート】GLASIAOUS Next2023持続可能な成長を実現させる新時代の経営戦略とは
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2023年11月22日 GLASIAOUS Next 2023 持続可能な成長を実現させる新時代の経営戦略とは〜企業経営における付加価値向上へのアプローチ〜が開催されました。[詳細はこちら]
昨今、欧米を中心にサステナビリティ経営や人的資本経営が進み、国内でもそれらを意識した経営戦略やM&Aをはじめとする海外進出戦略が求められています。一方、日本企業では、賃金水準の低迷が続き、付加価値向上が喫緊の課題となっています。そこでフォーラムでは、これからの時代に求められる「新たな価値観とAI/ICT等の新しい技術を融合させながら、付加価値を向上させる経営戦略」について、企業管理やM&Aをはじめとする海外戦略そして非財務情報の開示等をテーマに「会計×IT」の専門家が提案させていただきました。
以下、講演概要をお伝えします。
【基調講演】財務・非財務戦略による持続可能な企業価値創造ー「柳モデル」と「インパクト加重会計」の事例からー
早稲田大学会計研究科客員教授 柳 良平氏
日本のPBRは1倍弱、2倍を超える世界水準と比較しても劣位にあるが、日本の潜在的価値を顕在化できれば企業価値評価は倍増できる。
「柳モデル」によると、日本のCEOが追及する企業理念と投資家が求める株価を意識した経営の両立は、市場付加価値においては長期的に実現が可能である。
1)重回帰分析モデルによる統計的な証明、2)プロジェクトの具体的な開示、3)定性・定量の開示、4)それらを併せた世界の投資家と対話の4つをパッケージとして、長期目線でESG投資を行い、PBRを高めることが極めて重要である。
「インパクト加重会計」とは、財務上の利益に社会的重要なインパクトを数値化したものを織り込むことで、インパクト利益を出す考え方であり、基本3原則「Material(重要的な社会インフラを創出しているか)」「Additional(追加的に他社にない貢献であるか)」「 Measurable(会計数値で測定できるか)
」が求められる。
ESG開示については発展途上であるが、「柳モデル」と「インパクト会計」によってESGや社会的インパクトを定量化・数値化して開示することが有効である。その上でデジタルによる非財務のデータ管理が重要であり、更に長期的に定性面と定量面をあわせて、エンゲージメントを高めていく、正のサイクルを回していくことが社会的価値を向上させる上で重要である。
【企業講演1】未来への成長戦略: 付加価値向上の鍵を解く経営管理
BDOコンサルティング株式会社(BDO Japanグループ)マネージングパートナー 美谷 昇一郎氏
ESGの潜在的価値を顕在化できれば日本企業の企業価値は倍増でき、経営管理の観点から企業経営努力を通じて付加価値向上が実現していく。
欧米と比較すると日本は雇用の安定を重視する政策がとられてきていたため、不採算事業をすぐに整理するということをせず、雇用を継続する代わりに全体の人件費を抑制せざるを得なかった。そのような背景を基に経営管理の観点から4つのポイントを挙げる。
①投資収益効果の管理徹底と責任
…貢献利益を各事業・商品において比較していくことが経営管理上重要で、経営判断が出来る指標として算定できるような仕組みの管理徹底が必要。
②リスクテイクのできるリスクマネジメント
…リスク定量の把握・リスク確率の推定が出来ていることが重要。
③管理業務における不効率
…中小企業ほど管理業務を効率化していく必要があるため、アウトソーシングの活用をお勧めしたい。管理ポリシーや会計方針については密なコミュニケーションを心掛けることが重要。
④人的資本投資の適正化
…高能力セクションに合わせるためにボトルネックを外して適材適所に配置させる。
多様性こそが価値であり、能力をそれぞれ発揮することで多様性が付加価値になる。
【企業講演2】ESGの視点を取り込んだM&A戦略
CaN International Group パートナー 小田 英毅氏
近年、企業はSDGsの観点で経営を進め、M&A戦略を推進し企業価値向上を図っている。SDGsは世界的な目標であり、CSRは環境とステークホルダーへの説明責任を重視する。
ESGは企業の成長に不可欠で、投資家による評価要素でもある。企業にとってESGへの取り組みがSDGs達成に寄与し、ビジネスチャンス・市場開拓や企業の持続的な価値向上に繋がるというメリットがある。ESGの3つの観点:E(環境)、S(社会)、G(ガバナンス)のうち、ESGの視点を取り込んだM&A戦略においては、一般的に環境(E)の観点を対象として、環境課題を解決するために再生エネルギーやグリーン技術関連のM&Aを推進することがビジネスチャンスの源泉となっている。
ESG視点を取り入れたデューディリジェンス(DD)において、財務価値だけでなく非財務価値も包括的に調査し、ESG課題の重要性や機会はその業種やビジネスモデル規模に応じた項目を識別し、各課題と呼応するDDで対応する。DDで検出された課題やリスクを定量的に評価し対策を検討する必要がある。
【企業講演3】海外子会社管理の高次化 ~現地拠点の規模に応じた対応策~
日本経営ウィル税理士法人/NIHON KEIEI (INDIA) Pte. Ltd. 海外事業部 Director 藤井 邦夫氏
今年は、J-SOX(内部統制報告制)の改訂とCOVID-19の影響の緩和により、日本企業の海外子会社管理の重要性が高まって来ている。海外子会社の管理には規模に応じた対応が必要で、多くの場合、リソース(人材・システム)の不足による業務の属人化が課題となっていることが多い。これによって、内部統制の効果が損なわれ、本社と海外子会社の両方に負担がかかるケースも多く見受けられる。
不正のリスクが高い海外子会社では情報共有とコミュニケーションの不足が特徴で、汚職、資産不正流用、財務諸表の不正報告、情報漏洩などがリスクとされ、単独で行われる横領や着服から粉飾決済などの被害額が大きなものまでさまざまなものがある。不正の発覚手段としては、内部通報と内部監査・マネジメントレビューが主要。
これらを踏まえ、不正防止の取り組みとして、まずはどこにリスクがあるかを把握し、内部監査・マネジメントの仕組みを構築することが重要。そしてさらに、海外子会社のタイムリーな月次報告を支援するためにクラウドシステムの活用や専門家へのアウトソーシングなど規模や子会社の特性に応じた対策を検討する必要がある。
【企業講演4】サステナビリティ情報の開示における事例分析と今後の展望
株式会社青山綜合会計事務所 公認会計士 花澤 健司氏
有価証券報告書へのサステナビリティ情報の掲載によって、財務だけでなく環境や社会といった要素を考慮し、どのステイクホルダーに対してどの重要性の話をしていくのか特定していく必要がある。サステナブル投資残高は年々拡大傾向、調達面でもESG債発行の調達規模が拡大している。
時価総額上位50社を基準に従業員の状況及びサステナビリティの開示を対象に調査を実施。開示の範囲については各社の判断によるところも多く、開示方法についても今後基準が明確化・整理されていくと考える。法令に基づいた差異は見やすいが、育児休業率や男性の休暇取得率など会社の従業員構成や算出方法によっても変わるため、読み手にも理解が必要。金融機関や親子上場企業で比較したが、開示の方法・内容は異なっている。財務情報と非財務情報をリンクさせて記載する企業は少数だが、非財務情報を財務情報に置き換えて記載することは望ましい。非上場企業でもイラストや図を用いてわかりやすく記載し、積極的な姿勢を見せる企業もあった。
非財務情報のデータ収集には時間と労力が必要。今後は会計情報同様に情報収集のDX化・成熟化が、開示の充実・サステナビリティの投資・資金調達力の向上に繋がる。コーポレートガバナンスの改訂により、上場企業はサステナビリティについての取組の適切な開示が求められるため、早めの情報収集と開示の充実により、積極的な姿勢を示すことが重要である。
【企業講演5】生成AI時代における企業の高付加価値化戦略~業務効率化、自動化から経営支援まで実現するOpenAI とは~
日本マイクロソフト株式会社 パートナー事業本部 ビジネスデベロップメントマネージャー 川岡 誠司氏とビジネスエンジニアリング株式会社 執行役員 プロダクト事業本部 副事業本部長 兼 クラウドビジネス推進本部長 兼 商品開発本部 商品開発4部長 関口 芳直
両社はパートナーシップの基、ビジネスエンジニアリングはクラウド型会計&ERPサービスGLASIAOUSをはじめとした自社ソリューション・サービスへのAIの実装、Microsoftは強力なAIサポートを行っている。
GLASIAOUSはMicrosoft社のAzure OpenAI Serviceを活用し、業務の「効率化」から「完全自動化」の将来像を描いている。その第一歩として「GLASIAOUS Copilot機能」を2023年11月にリリースし、導入や利用をAIでサポートする。今後は段階的にAIサポートを拡張し入力から出力までを完全自動化し、経理担当者は高付加価値な作業にシフトする。
MicrosoftはあらゆるサービスにAI機能「Copilot」を実装し、強固なセキュリティ環境で皆様のビジネスをAIによってサポートをしていく。OpenAI社が発表するモデルや機能に追随し提供予定で、画像や音声も扱えるものにバージョンアップしている。GLASIAOUSにおいては新しいAI機能として「あらゆる伝票・証憑の画像データのテキストに分解しての取り込み」や「導入時の最適なマスタ・パラメータの自動設定」が出来るようになり、高付加価値な進化するERPとして提供できればと考えている。
我々は、AIをツールとしてうまく取り込み、皆様の頼れるAIパートナーとしてあり続けたい。
【特別講演】ESG施策と機関投資家 ~施策効果を見える化させるためのデータ活用法~
エコノミスト 株式会社グッド・ニュースアンドカンパニーズ 代表取締役 崔 真淑氏
機関投資家の中でESG投資に賛同する傾向が高まっている。従来の財務情報だけでは投資リターンの獲得が難しくなり、非財務情報であるESG情報の開示が必要。企業は投資マネー調達のためには非財務情報ESGの開示が不可欠だ。
ESG経営の実態を確認するためのESGスコアが存在し、これにより企業のESG経営を測ることが可能である。ESGスコアが高い企業は企業価値も高い傾向があり、本業に近いESG経営が企業価値向上に寄与している。一方で、本業とかけ離れたESG経営は企業価値は伸びにくい。具体的には、環境(E)の施策は機関投資家の持ち株比率が上昇する傾向にあり、最低限の環境施策は投資マネー調達の基本条件となっている。社会(S)の施策では、ジェンダーに関する取り組みが必要であり、経営陣の多様性が企業価値に寄与し、同時に投資獲得にも不可欠だ。企業統治(G)の施策は最低限のルールを守ることが必要である。
ESG施策と企業価値の因果関係は複雑であるが、回帰分析の最小二乗モデルやDIDモデルを用いて効果を測定できる。企業は何を企業価値の指標にするか、何をESG施策にすべきか仮説を当てて検証し、ESG施策の効果を見える化することが重要である。
いかがでしたでしょうか。
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