コロナウィルスの感染状況も落ち着きを見せており、今後出向等で海外に長期滞在する場合も増えてくるかと思います。
その際、国外転出時課税制度により所得税の納付が発生する場合があります。今回はこちらの制度を取り上げたいと思います。
1.国外転出時課税制度の概要
国外転出時課税制度とは、海外出国後に含み益のある資産を売却することによる課税逃れを防止するための制度です。
内容としては、一定の居住者が所有している有価証券等の価額の合計額が1億円以上ある場合、国外転出時にその有価証券等の含み益対して所得税を課税するというものです。
1億円以上の有価証券等と聞くと、あまり関係のない制度のように思えてしまうかもしれませんが、相続対策として子や孫に自社の株式を保有させている状況において、その子や孫が海外への留学や海外法人への出向等を行う場合、本制度が適用されてしまう恐れがあります。
また、海外の子や孫へ対象資産が贈与や相続された場合についても、本制度の対象とされています。
本制度が適用された場合の申告納付期限は、納税管理人の届出が提出されているかどうかによって異なります。
- 納税管理人の届出あり・・・翌年の確定申告期限まで
- 納税管理人の届出なし・・・国外転出の時まで
2.納税猶予制度
国外転出時課税制度において、下記要件のいずれも充たす場合には5年間の納税猶予が認められています。
- 納税管理人の届出を行っていること
- 確定申告期限までに一定の書類を添付した確定申告書を提出し、所得税及び利子税の額に相当する担保を提供していること
この猶予期間中の各年3月15日までには、継続届出書の提出が必要となります。
継続届出書を提出し忘れた場合には、その提出期限から4か月以内に猶予されていた税額を納付しなければならないため注意が必要です。
納税猶予期間が満了した場合や対象資産の譲渡を行った場合には、その満了日から4か月以内に猶予されていた所得税及び利子税を納付する必要があります。
非上場株式の担保提供については株券での担保提供が必要とされているため、株券発行会社への移行手続きが必要となる場合があります。
この手続きの煩雑さが国内企業の海外進出への妨げになっているとも言われており、令和5年度税制改正要望においてその利便性向上が求められています。