TCFウェビナーレポート「現地駐在員が贈る!コロナ禍でのフィリピン最新動向と今後の経営セミナー」

フィリピンは、有望な市場と優秀な労働力で魅力に溢れ、ASEAN諸国の中でも成長著しい国と、近年多くの日系企業が進出をしています。
日系企業様が、知っておくべき現地コロナの状況、法改正事項から海外子会社マネジメント、税務についてのWebセミナーを東京コンサルティングファームと共催いたしました。
2日間にわたって開催したWebセミナーの開催レポートをお届けします。
当日のスケジュールや登壇者のプロフィールはこちら
現地駐在員が贈る!コロナ禍でのフィリピン最新動向と今後の経営セミナー
基本編
フィリピンのコロナ関連情報
フィリピンは東南アジア1の感染者数がおり、一日当たりの感染者数は5000人を超すこともある。
一方で、そのような厳しい状況にありながら、現在はロックダウンを緩和している状態となっている。
また、マニラ首都圏の病床使用率は危険とされる70%を超えており、入国が再開しても安心して働ける環境とは言いづらい。
ロックダウンの状況としては一部交通機関(民間企業の運営目的)の再開が始まっているほか、一部業種においては、労働力の上限はあるが操業可能になってきている。
しかしながら、感染情報を鑑みるとさらなる規制緩和については難しいと考えられる。
外国人の入国禁止状況は続いており、結婚永住ビザやクォータビザなどの永住ビザを持っている方しか入国できない。
入国ビザを所持していても、入国条件として下記の条件が課されており、入国にはまだまだ時間がかかることが予想される。
フィリピンへの入国条件(永住ビザ保持者のみ)
1.政府認定済みの隔離施設への事前予約
2.新型コロナ感染症の検査の事前予約
3.到着空港の受け入れキャパシティがあること
日系企業の動向
日系企業の進出件数は年間1,500企業前後となっており、業種は製造・飲食・金融など多岐にわたる。
進出地域はセブ・ラグナ・マニラ・ミンダナオなどが多い。
5年ほど前までは、コストダウンを目的とした製品輸出/労働集約型モデルが主流であったが、最近ではフィリピン国内の人口増加の影響で売上アップを目的とした国内販売/地産地消型モデルでの進出が増えてきている。
そのため駐在員の役割も本社の一社員としてではなく、現地の社長として経営者思考が求められてきている。
世界銀行が発表しているビジネス環境ランキングでは、フィリピンが95位まで上がってきており、ビジネスのしやすさは改善してきているといえる。
日系企業が抑えるべき法制度
1.事業環境改善法
2018年8月2日施行。許認可手続きの自動化・迅速化を目的。
主な内容
・汚職取り締まりのための機関を設ける
・汚職した職員に対する罰則を定める
・各種手続きの対応日数に上限を設ける
→簡易手続き/3日以内
→複雑な手続き/7日以内
→高度な技術を要する手続き/20日以内
2.BIR新規登録において事業許可証の提出が不要に
2020年6月9日施行。法人設立プロセスの時間短縮化を目的。
主な内容
・BIRとLGUでの手続きが同時並行可能になる
→今まで設立に係る期間は3~4ヵ月かかっていたが2~3ヵ月に短縮される見込み
3.外資投資ネガティブリストの更新
2018年10月28日に「インターネットビジネス・一部の教育機関・ウェルネスセンター・
公益事業免許が必要なBOTプロジェクトの提案、施設運営・損害査定会社」などの規制がなくなった。
※小売業の外資規制緩和や民間人材紹介業の外資制限などの緩和は変更なし。現在、小売業の外資規制緩和法案を上院で審議中。
4.会社法の改正
2019年2月23日施行。
主な内容
・発起人/取締役の数が最低2名に
・居住要件の撤廃
・最低の規制撤廃
・財務役の居住性要件の明確化
・預託保証金が50万ペソに増額
・遠隔的な通信手段による株主総会・取締役会議が公式に認められる
・OPCの創設
5.繰越欠損金(NOLCO)
3年間繰越欠損金を計上できる。
6.付加給付税(Fringe Benefit Tax)
会社が管理的な立場がある従業員に対して物品や薬務を現物給付した際に課される税金。
駐在員の社宅・車両・扶養家族の教育費など。
四半期に一度、会社が源泉徴収して申告納付を行う。
7.最低法人所得税(MCIT)
事業開始から4年目以降の課税年度より、法人の黒字・赤字に関わらず売上総利益の2%の納税義務あり。
8.不当留保金課税(IAFT)
同族会社を対象とした配当等をせずに企業内留保することで、株主の個人所得税回避を目的とした不当な剰余金に課せられる制度。
通常の法人所得税課税後に更に10%が追加課税される。
海外子会社マネジメント
共通するお困りごと
駐在員の人数・キャパシティに組織の規模が比例する状態だと…
・日本人が増えれば、販管費が増え、利益がでにくい
・日本人が増えなければ、ずっと忙しい
・駐在員が変わると組織・仕事のやり方も変わってしまう
・駐在員がいなければ(増えなければ)、会社の成長のために動いてくれる人がいない
コロナ禍で出入国制限がある今、駐在員に属人化している状態は非常に危ないといえる。
また、多くの企業が以下の原因から成果の頭打ちに直面している。
・売上上昇率より賃金上昇率が高く、利益を圧迫している
・駐在員に選ばれるのは、技術職や営業色が一般的であり、
人事制度構築や人事労務管理が後回しになっている
・現地採用した職員の離職率が高い
これらの問題を解決するためには、以下の対策が必要になる。
「駐在員縮小時代」に見直すべきこと
・どのような人材を雇うのか
即戦力となる技術の高い人材である職人は、教育が必要なく雇いがちである。
しかしながら、会社への忠誠心が低いため一通り経験を積んだ後、更に条件のいい企業へ転職してしまうこともある。
・どのような人材を評価するのか
技術がある人材ではなく、会社の目的に共感してくれる人材を評価する。
このような人材は、自然と技を磨き会社の成長へ貢献してくれる。
・どのような教育をするのか
技術研修だけでなく、モチベーションや会社への忠誠心を上げるための心の教育が重要になる。
実践編
第2弾税制改正のアップデート
2018年よりフィリピンでは税制改正の協議が続けられてきた。
上院の可決は、2020年6月3日までの承認予定であったが、コロナの影響もあり未決となっている。
コロナ拡大を受けての税制改革見直しのポイント
・ロックダウン影響を受けた産業への痛みの緩和
・感染症対策に多額の支出をしている政府の税収の補強
・財務インセンティブ審査委員会(FIRB)による企業への個別支援
税制改正予定となる主な項目
・法人所得税の見直し
→現行30%という法人税を2020年7月より25%に引き下げ。段階を踏みながら2027年には20%まで引き下げる。
・優遇税制の合理化
→既存の優遇税制を受けている企業が、引き続き同様のインセンティブを受けることができる期間の改正。
また、新インセンティブ対象企業は、特別税率(SCIT)か追加控除の2つの選択肢からインセンティブを選択可能となる。
・その他
→財政インセンティブ審査委員会(FIRB)の役割、PEZA登録支店の視点利益送金税、繰越欠損金など
移転価格税制
移転価格とはそもそもなにか
上記画像のように、親会社が国外の子会社に対して値下げして販売を行った際に、A国が徴収できる税額が減ってしまう。
そのため通常価格で販売した際にかかる税額との差分を追徴課税するという制度である。
フィリピンにおける移転価格税制
2013年に内国歳入庁(BIR)より移転価格に関するガイドラインが公表され、2019年8月には移転価格税務調査のガイドラインが作成された。
2020年7月には関連会社間取引に関する年次申告の義務化が始まるなど、今後更に移転価格の取り締まりが厳しくなる可能性がある。
迫りくる税務調査
2019年5月2日に公表された「BIR5ヵ年戦略計画 2019-2023年」では、以下の個別プログラムが明記されている。
・包括的税制改革(CTRP)の大規模な周知活動、実施
・納税者の自主的コンプライアンスに向けた納税サービス/執行プロセス改善
・BIR職員の能力向上のためのトレーニング
・BIRシステムの強化、処理能力の向上
コロナの影響もあり、ロックダウン以前に始まっていた税務調査は停止しているが、「Community Quarantineの解除後から更に60日後」から再開予定である。
実際に9月以降、新たに税務調査が開始されたケースも存在する。
税務調査の特徴や調査企業の選定基準は以下の通り。
税務調査の特徴
・設立4期目以降が対象
・長期間かかる
・多額の追徴課税
・形式基準を重視する
・指摘事項の根拠を明示しない
・企業側に反証義務がある
・アンダーマネーを払うと毎年入る
調査企業の選定基準
・税制優遇を受けている
・複数年、赤字が続いてる
・税務上の売上申告額が財務諸表上と異なる
・第三者からの情報提供
・海外の関係企業との取引が多い
もし税務調査に入られた場合、通常は下記の流れで税務調査が行われる。
実際の税務調査の事例では、調査企業の業種は人材紹介業・不動産管理業・サービス業・小売業など多岐にわたる。
財務担当官の主な指摘事項として、源泉税・駐在員への諸手当・証憑類の管理などがあげられる。
また最初に提示される追徴税額は、多くのケースで約10分の1程度の減額が可能である。
そのため税務調査に入られた場合は、現地の税制に精通したフィリピン会計士より反証することが重要となる。
まとめ
いかがでしたか。
今後、フィリピン進出を検討している企業様、またはフィリピン赴任予定の駐在員の方には、有益な情報となったのではないでしょうか。
事前にフィリピンビジネスのリスクを知り、予防対策を取ることで、コロナ下での経営危機をチャンスへと転じる一助になれば幸いです。
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ご興味のある方は、是非ともご参加いただければ幸いです。
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