いつもお世話になっております。東京コンサルティングファームです。
今回はフィリピンのリース会計基準の変更について解説します。
フィリピンでは2019年度以降開始する会計年度より国際財務報告基準IFRS16(International Financial Reporting Standards)と同一のフィリピンの財務報告基準PFRS16(Philippine Financial Reporting Standards)が適用されることとなりました。これにより、今回のテーマであるリースに関する会計基準として、これまで国際会計基準IAS17「リース」及びこれに関連する基準が適用されてきましたが、2019年1月以降に開始する事業年度(3月末決算の場合は、2019年4月より適用開始)より、IAS17に代わって、IFRS16が適用されることになりました。
従来のリース会計基準では、リスクと経済価値のほとんどすべてを移転するリース(リース総額と資産の購入価格がほぼ同額のリース等)をファイナンスリース取引、それ以外のリースをオペレーティングリース取引に区別していました。
ファイナンスリース取引は経済的実体が借入を行ったうえで資産を購入する取引、オペレーティングリース取引は賃貸借取引としてそれぞれ認識され、以下の会計処理を行うことが求められていました。
【ファイナンスリース取引】
・割引計算によるリース資産及びリース負債の計上
・リース資産の減価償却
・複利計算による利息の計上
【オペレーティングリース取引】
・リース期間にわたって定額のリース料の計上
2018年度までは上記取引を区別して財務諸表上に計上する必要がございましたが、2019年度より適用されるIFRS16では、リース取引を「対象となる資産(原資産)の使用権が、一定の期間に渡り、対価と交換に移転される契約(または契約の一部)」と定義され、具体的には、以下の二つの条件を満たすものが該当します。
①原資産が特定されている
②借手が当該資産を使用する期間にわたって、「当該資産の使用から生じる経済的便益の実質的に全てを享受する権利」及び「当該資産の使用を指図する権利」を要する
上記定義の下では、従来のリース会計の対象は純然たるリース契約のみが対象でしたが、IFRS16ではいわゆる事務所や工場などの賃貸借契約もリース基準の対象に含められることになりました。
したがって、2019年度開始の会計年度以降、ファイナンスリース取引とオペレーティングリース取引の会計処理には、IFRS16が適用されることにより、全てのリース取引に対して、リース資産の計上は行わず、使用権資産/リース負債としての認識及び会計処理を求められることになりました。新たなリース会計基準が適用されることにより、これまでオペレーティングリース取引として賃貸借取引に準じて会計処理を行っていたところを、今後は資産及び負債を計上する必要があるため総資産が膨らみ、他業種や他社との比較になる経営指標であるROA(Rate of Return on Assets:総資産利益率)に影響を及ぼすこととなります。
※ただし、以下のリース取引についてはファイナンスリース取引の会計処理の対象外となります。
①短期リース(リース期間が12カ月以内のリース)
②少額資産(新品価格が概ねUSD5,000以下が目安)
それでは、実際の会計処理に関して、モデルケースを見ながら必要な会計処理に関して学んでいくことにしましょう。
(取引内容) 当期:2019年1月1日~2019年12月31日
リース期間:2018年1月1日~2022年12月31日(5年)
支払リース料:毎年200(年1回12月支払)、総額1,000
割引率:5%
1.使用権資産/リース負債の算定(割引計算)
リース料総額は1,000ですが、5年後の1,000に対する割引現在価値(期首リース債務)は866となるので、2018年度期首において当該金額を使用権資産・リース債務として計上します。なお、割引率は企業の借入時における借入利率を用いることになります。
(注)期首リース債務866の算出方法:
200/(1+5%)+200/(1+5%)^2+200/(1+5%)^3+200/(1+5%)^4+200/(1+5%)^5=866
2.リース費用処理額(利息費用の考慮)
ファイナンスリース取引の場合の1年目のリース費用は、利息費用43と減価償却費173を合計した216となり、従来のオペレーティングリース取引では、支払リース料200となっていた為、新しいリース会計基準では16だけ多く費用が計上されることとなります。一方、リース期間の中間である3年目のリース費用は200となり、従来の基準と同額、最終5年目のリース費用は183となり、従来の基準(200)よりも少なくなります。ただし、リース期間を通じた合計では、いずれの基準でも合計1,000で同額となります。
3.過年度遡及
IFRS16では当該基準を過去の会計年度に遡って適用することを求めています。そのため、2018年度以前から契約しているリース契約については、従来の会計基準による費用額とIFRS16による費用処理額との差額を期首の利益剰余金で修正することになります。
過年度遡及に対しては、比較対象期間(前期)から適用・修正する方法(完全遡及アプローチ)と比較対象期間は修正せず、当期から修正する方法(修正遡及アプローチ)に2通りがあります。
今回のモデルケースで完全遡及アプローチを採用した場合、2018年度について、リース費用200を利息費用43と減価償却費173に置き換えて、決算書を修正します。一方、修正遡及アプローチを採用した場合には、2018年度影響額16を2019年度の期首剰余金からマイナスする処理のみを行い、2018年度の決算書の修正は行いません。
修正遡及アプローチを採用した場合の会計処理は下記の通りとなります。
2018年度期末:
(借方)支払リース料 200 (貸方)当座預金など 200
2019年度期首:
(借方)期首利益剰余金 16 (貸方)リース債務 709
(借方)使用権資産 693
2019年度期末:
(借方)支払利息 35 (貸方)当座預金など 200
(借方)リース債務 165
(借方)減価償却費 173 (貸方)減価償却累計額 173
以上より、新しいリース会計基準の適用にあたって下記をご確認頂き、今後の事業計画を立てる際にお役に立てて頂ければと思います。
1.当該基準の影響のあるリース契約の有無
2.影響額の試算
3.事業計画/予算への影響の有無
4.過年度への影響の有無
注記:今回のリース会計基準の変更は、フィリピン会計基準を完全に遵守するPFRS企業のみが対象となり、中小企業に対して適用内容が緩和された別基準PFRS for SMEsは選択適用となり、PFRS for SEは従前通りオペレーティングリース取引にて仕訳を行うこととなっております。
より詳しい情報をお求めの場合やご相談等ございましたら お気軽にお問合せいただければ幸いです。