【開催レポート①基調講演】「タイで“儲かる企業”になるための戦略と組織運営」GLASIAOUS Next in Thailand

11月の天気の良い日、GLASIAOUSセミナーが日本を飛び出して、バンコクで初めて開催されました。GLASIAOUS Next in Thailandは100名近くの方にいらしていただき、大変盛況なイベントとなりました。
数回に分けて開催レポートをお届けします。まずは、バンコク週報グループのCEOとしてご活躍の臼井様による基調講演です。
当日のスケジュールや登壇者のプロフィールはこちら
基調講演「タイで“儲かる企業”になるための戦略と組織運営」
東南アジア諸国の中心にあるという立地から、物流などの中心地であるタイ。進出する日系企業も多い一方で、現地スタッフの考え方のギャップに戸惑う経営者も多いという。今回は、在タイ30年という経営者の"先輩"として、バンコク週報グループCEOの臼井秀利氏にお話いただいた。
序章:
1997年のアジア通貨危機で広告収入が激減した際、不景気であっても元気な業界に目を付け、その業界の広告ありきの媒体を作るという、少し目線を変えることで乗り切った経験を語っていただいた。
また、MBOで経営を引き継いだ際には、それまで行っていなかった、金や人の管理業務もやることになり、苦労されたご経験もあるとのことだった。
本題に入るにあたり、臼井氏は
「コミュニケーション=姿勢」
であることを強調された。他の全てを忘れても、これだけは持って帰っていただきたい、と語る。
第一部:タイ人と働くということ
臼井氏によれば、タイ人の仕事の仕方は、基本的には日本人とさほど差があるわけではない。その上で、生まれや育ちが異なる価値観であることを日々忘れずに、コミュニケーションをとることが大切だという。
たとえば叱り方ひとつをとっても、タイ人の価値観を尊重せず、日本人を叱るように接してしまえば大きな反感を買う。
一般に、タイ人はプライドが高い人が多く、人前で叱られることを嫌う。「怒鳴る人間は尊敬に値しない」という人格論を持ち、一度でも人前で怒鳴る姿を見せてしまえば部下はついてこなくなる。一方、別室で、一対一でしっかりと理由を説明し、一緒に解決する姿勢を見せれば後々まで引きずることは少ない。また、タイ人は叱られた際に、謝罪せず笑顔でいることがある。これは笑顔の中で充分反省していて、これ以上触れないでほしいという意思表示なのだという。
もしタイ人の価値観を尊重せず接してしまえば、彼らの退職を招く。これはそもそも失業率が著しく低いという背景や、転職が当たり前と考えられていることに起因する。
日本人は、会社を軸に社内で各部署を経験することで出世していく。一方でタイ人は、特定分野の業務で会社を転々とすることで経験や知識を磨き、地位や収入を上げる傾向にある。
そのため、彼らの退職を防ぐには、タイ人が「会社」に就くわけではなく、「人」に就くことを理解する必要がある。
第二部:タイ側から見た働く日本人
「人」に就くとはどういうことか。先に述べたように、タイ人は日本人に比べ、会社への帰属意識が薄い傾向にある。そのため、彼らが重視するのは、会社を率いる「ボス」が尊敬に値する人であるかだ。
あるタイ人社長は、社長の給与が高い理由について、以下のように述べたという。
「社長の給与が高い理由は、社主である、仕事ができる、責任が重いという理由だけではない。上位者には”社会的地位による経費”が掛かるためだ。」
ここで言う”社会的地位による経費”とは、冠婚葬祭や社員への還元などを指す。実際に、部下の冠婚葬祭に仕事の先約をキャンセルしてでも参加したり、結婚式のご祝儀を会社から以外に社長個人のポケットから出したり、社員の子息の入学金を社長が支払ったりすることなどは珍しくない。
このように部下が上司から金銭を受け取ることが当たり前の文化である一方、会社の金で接待を行うことに対しては、「会社の金泥棒」、「不正」など否定的な意見を持つタイ人も多い。
こういったケースで社員からの理解を得るためには、成果を上げること以上に日々のコミュニケーションが大切になってくる。たとえタイ語が話せなくとも挨拶だけはタイ語でしたり、ポケットマネーで社員へ還元したりするなど、「決して会社の金だけで仕事していない」と示す日々の姿勢こそが、尊敬に値する人であるかの大きなファクターとなる。
第三部:定着率を上げる方法(実例)
タイ人の退職率を下げるには、先述したように、接する日本人の上司が「人」として魅力があることが重要である。臼井氏は、それに加えて、定着率を上げる会社としての取り組みを、日系企業が実際に行った例を交えて紹介した。
<例1>
施策:社員が車を買う際、会社が無利子で、会社名義で一括購入する
効果:社員は会社に対して無利子で月賦返済する。返済を終えると名義を個人名義に移す。返済を終えるまで、社員は会社を辞めない。タイはローン等の利子が非常に高いため、多くの社員がこの制度を利用する。
<例2>
施策:カンパニー・カーを10年後に社員に無償譲渡する
効果:社員が10年間はやめない。いずれ自分の車になるため、車を大切に扱う。副次的効果として、無事故・無違反へとつながる。
<例3>
施策:地元の学校に奨学金を出したり、定期的に地域の清掃活動に参加したりする
効果:タイには「施し」の文化が存在する。地元民から好意的にみられるようになり、道を歩いていると挨拶をされるなど、社員であることに誇りを感じるようになる。
臼井氏の会社でも、例年行っていた社員旅行の代わりに、寺院に火葬場を寄付するという提案が従業員から持ち上がった。火葬場の寄付はタイ人でもなかなかできる経験ではないそうで、実現したその企画には家族も参加していた。帰りのバスの中で、従業員の親御さんから「あなた、こんなにいい会社、絶対に辞めてはだめよ」という会話があちこちから聞こえてきたそうで、思わぬ効果を生んだという。
これらの実例を紹介した後、臼井氏は「定着率の低い企業の多くは、とにかくコミュニケーション不足。『あなたを気にかけています』という姿勢が、相手に目に見える形で届いているか否かがとても重要です。」と締めくくった。
まとめ
タイでの長い経験から、タイ人とのスムーズなコミュニケーションのためには「姿勢」が大事だということを強調されました。
開催後のアンケートでも、「実体験に基づく内容で非常に納得性が高かった」「タイ人からの見方、考え方について、改めて理解できました」と大変に好評をいただきました。改めて臼井様にお礼を申し上げるとともに、皆様の一助となれば幸いです。
その他の開催レポートはこちら