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「海外拠点の不正事例とその防止策とは?~東南アジア編~」GLASIAOUS Next 2019【開催レポート5】

2019.04.16

5回目の今回は、タイを中心とした不正事例のその解決策を紹介するセッションです。セミナー開始から3時間近く経過しましたが、150名以上の方にご聴講いただきました。
本セッションでは、銀行員として海外駐在や支店長としてのご経験を持ち、現在は辻・本郷税理士法人の税理士としてタイに駐在をされている佐藤洋史氏にご登壇をいただきました。東洋ビジネスエンジニアリングの松本の質問に応える形でセッションは進められました。

セッション③ 海外拠点の不正事例とその防止策とは?~東南アジア編~

1.日系企業の東南アジアの進出状況

本題に入る前に、アセアン諸国の状況を国別に説明いただいた。
タイでは製造業が中心であるものの、近年はサービス業の進出も見られてきている。ベトナムでは中国とのつながりが大きい。インドネシアでは圧倒的な国土と人口を持ち、ミャンマーはこれからの期待はあるものの、まだ軍の力が強く先行きが不透明な側面がある。カンボジアは人口や経済規模は小さいが、外資規制がないという有利な面はある。
経済の成長度合いやポテンシャル、法規制もそれぞれ国によって異なるため、状況に合わせて進出方法・管理も考える必要があるという。 

2.不正の起こる背景

①不正のトライアングル
ご存じのように、「機会」「動機」「正当化」の3つの要因がある。それぞれについて海外拠点を念頭に解説をいただいた。

「機会」:特に日本人の現地社長について、本社からの牽制がないと不正を行う隙を与えてしまう。現地スタッフについては、現地語でコミュニケーションが取れないことや、管理を1名の人間にやらせ十分な職務分離に至らないことも機会となりうる。ERPシステムの導入はコストが高いため、全てエクセルで管理をしており、請求書すら連番管理していないことがある。
「動機」:タイでは社会保障制度が十分でない点があり、子どもや親の面倒をみるためにお金が必要で不正に手を出してしまうケースがある。また不当な評価や叱責により、急に退職してしまうこともあり、退職の前に不正を起こすこともある。
「正当化」:コンプライアンス意識向上のためには、現地トップの姿勢が重要だという。例えば接待ばかり行っていると、モラルの向上やコンプライアンス意識が十分に社員に行きわたらない。 社長が会社のお金を使っているからと、自分を正当化しやすくなってしまう。

②特にタイにおいて不正の起こる背景
タイ人の特性として、一般的にプライドが高く、人前で怒ることは厳禁という。翌日から会社に来ないこともあるそうだ。
仏教の影響が濃い国であり、施しや寄付の文化が根付いており、それ自体はとても良いことなのだが、会社においても「豊かな会社から少しくらい貧しい方にお金をもらっても平気という意識になりがち」と佐藤氏は語る。
また、争いを好まない、あまり(ことに日本人がいる場では)自己主張をしないなど、ホウ・レン・ソウを期待するのは難しいという。報告が来る段階にはかなり大きい問題になっていることが多い。そのため粘り強く、こちらからコミュニケーションを取るように心がけることが肝要ということである。
加えてタイでは近年1.0%程度の低い失業率を維持しており、転職が容易であることも不正の一因になっているという。 

3.具体的な不正事例と個別の対策

①現地スタッフによる不正
タイでの現地スタッフによる不正であるが、初歩的なものが多い。小口現金の釣り銭の着服や、売掛金回収代金の着服、領収書の偽造、幽霊社員への給与支払などが紹介され、それぞれ対策が示された。

 ②日本人駐在員による不正
最近目立ってきているのが、日本人駐在員による不正である。タイでは業歴の長い日系企業が増え、長期間日本人トップに権限が集中すると、不正の隙ができる。金額的なインパクトは現地スタッフによるものとは比べものにならないほど大きい。
社長と社員が共謀して幽霊会社の売買を実行して多額の資金を着服した事例や、社長から会社への貸し付けを通常より高い利率で実施した事例、個人的な贈答のために接待交際費を乱用した事例、経理担当者に指示して退職金支払の名目で多額の資金を着服した例などが紹介された。
いずれも社内では牽制が難しいため、外部の監査や本社からのチェックを行うことが唯一の防止策であることが強調された。

 ③ローカル企業での不正
従来は海外進出といえば新規設立が主だったが、近年はタイ経済の成長により、日本企業が現地ローカル企業を買収することも増えてきた。これに伴い、ローカル企業の不正事例についても触れていただいた。
ローカル企業はオーナー企業が多く、公私の区別があいまいである。また会計帳簿も不正確で、「用途」によって複数の帳簿を使い分けているケースがあるという。実際に起こった例では、事前に財務デューディリジェンスを行っていたものの、実際の決算を締めるとあるはずの内部留保がほとんどなかった。加えて税務調査が入り、内部留保を配当したとみなされ源泉徴収課税を受けてしまったという。この事例では会計帳簿が複数あったと考えられる。これを防止するためには、書類のチェックだけではなく、実際にオーナーと面談し、説明に矛盾がないか、その人自身の信頼性も含めて見極めることが必要ということである。

 ④タイ以外の地域での不正事例
ベトナムではまだ業歴の浅い企業が多いため、日本人の不正はまだ起こっていないものの、現地スタッフが仕入先より不当なキックバックをもらっていたケース、架空発注を行っていたケースが紹介された。
カンボジア・ミャンマーではまだ日本企業の数自体が少なく、会社規模もそれほど大きくないため、目立った不正事例は少ないそうだ。ただし、今後タイやベトナムと同じような不正が起こることは十分考えられ、そのための対策は打っておく必要があることが強調された。 

4.不正防止のための本質的な方策

①不正の「機会」を防止するための仕組みの構築(図)

社内チェックでは、月末の現預金残高や、銀行の取引一覧を見て、大きな資金のやり取りに気を配ること、B/Sのチェックでは、「売掛金」の滞留や「預け金」の状況を確認することが大事であることが言われた。また日本人駐在員への牽制は、本社や外部監査でしか行えないことが改めて強調された。

クラウド会計については松本から補足の説明があり、「いつでも、どこからでも、皆で見られる」ことが特色であることが紹介された。具体的には、本社がいつでも子会社の情報を見ることができ、また社内でも、場合によっては会計事務所でも同じデータを扱うため、牽制につながる。ソフトによっては翻訳機能もあるため、日本人が意味を十分に理解しないまま次に進んでしまうリスクを低減できる。
「クラウド会計と、他には銀行の取引一覧があればそこまでおかしなことは起こらないのでは」ということが自身の経験から言われた。また「クラウドは比較的導入も簡易で値段も手頃であることから、すぐに取り入れられる仕組みとしても適している」という。 

②最も大事なことは?
最後に、ご自身もタイでの現地法人トップを務められている立場・経験から、佐藤氏が不正の「動機」「正当化」を防止するために、最も大事なことについて語った。

●社内コミュニケーションを十分に取り、部下に任せきりにしないこと
●(駐在員が)経理もよく見ているという姿勢を示すこと
●長く働きたくなるようなスタッフのモチベーションの維持、向上

日本でも海外でも、結局は人間関係が大切である。佐藤氏自身も、社員旅行の開催や、定期的に誕生日会を開き一人一人にカードを贈るなど、コミュニケーションを促進するための努力をされているという。日頃のコミュニケーションによる信頼関係の構築が不正防止の一番のキーであるとして、セッションは結びとなった。

 

 セッション後のアンケートでも、具体的な事例が紹介され、かつ防止策も明確で参考になったという意見が多かった。年々比重の重くなる海外事業の管理は古くて新しい論点だが、リスナーの皆様に有用な情報を持ち帰っていただけたのではないだろうか。

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