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トピック

もし工場長が企業経営者になったら (フィリピン編)【第2回】

2018.11.01
太陽グラントソントン

第2回 財務に対する客観視(1)-実態を表した財務報告-

前回、フィリピン法人社長に就任した場合、例え会計や税務の知識が不足していたとしても、経営全般に対して責任を負い、自社の客観視を行う必要がある旨、お話した。

フィリピン法人経営者の責任

フィリピン法人の経営者は、フィリピン法人の事業の責任を負っているとともに、その事業の結果を親会社に財務報告として説明する必要がある。親会社はその財務報告を利用して、重要な意思決定を行う。実際は、経営者に会計・税務の知識がないと、フィリピン人経理担当者に財務報告を任せきりにしてしまうことも多い。その場合、事業の実態を反映していない財務報告となる可能性があり、結果、親会社が意思決定を誤ってしまうこともある。そして、その責任はフィリピン法人の経営者に問われることになる。

ある日系企業のフィリピン法人の事例:“黒字化”の実態

ある日系企業の工場長は、優秀な技術と人望をかわれ、フィリピン法人の社長に就任した。フィリピン法人に赴任すると、現場に赴き積極的にフィリピン人スタッフに指導を行い、技術の伝授や部下たちの成長に力を注いだ。結果としてフィリピン法人で生産できる製品の幅が広くなり、赤字であった事業を黒字化させたとして親会社も喜んでいた。
一方、会計の知識は全くなかったが、日本での工場長時代は工場の優秀な経理担当者が全てうまくやってくれていたため、フィリピン法人においても同じように、会計のことはフィリピン人経理担当者を信頼して任せていた。このフィリピン人経理担当者は前任の時から同じスタッフであるし、何か問題があれば適時に報告・提案してくれることだろうと考えていた。経理担当者が作成した財務報告については、一応、目を通していたが、本当のところは、どう読み解けばいいのか、わかっていなかった。前任の時代と同様の報告が行われているのであれば問題ないだろうと考えて、経理担当者からの資料をそのまま親会社に提出していた。提出した財務報告について、親会社から毎月の仕入量が多く、在庫量が増加しつづけていると何度か指摘があった。毎回、経理担当者に確認するものの、棚卸の時に全ての在庫が保管されていることをチェックしているというので、特に問題ないと親会社に報告していた。
赴任して数年が過ぎ、継続して黒字決算を達成している中、親会社がフィリピン法人の在庫を直接調査するという話があった。先述の通り、在庫は全て実物があるため何も問題ないと考えていたが、調査をした親会社担当者から「複数年滞留している在庫が数千万円ある。財務報告上、評価損を計上しなければならない。過年度の決算の修正が必要。」と指摘を受けた。在庫は全て実物がある、確かに古いかもしれないが販売ができる可能性はある、と主張するが親会社の担当者は「その可能性は低い」として判断を変えることはなかった。結果として、過年度からの決算を修正することになり、継続して黒字だった決算は、修正後、全ての期で赤字となってしまった(詳しくは第3回で説明する)。そして、このフィリピン法人社長は責任を問われることになった。

親会社が期待している財務報告とフィリピン人経理担当者が作成する財務報告のギャップ

親会社は、適切な意思決定を行う為に、フィリピン法人の事業の実態を表した財務報告を求めている。実態を表した財務報告とは何か?今回の場合、同じ在庫であっても、販売可能性が低いものは販売可能性が低いことを、財務報告に反映させる必要がある。
一方、このフィリピン法人の経理担当者は「在庫だから在庫に計上していた」とのこと。在庫が将来、本当に販売可能なものかどうか(資産価値があるかどうか)までは、確認していなかった。日本の場合、在庫の販売可能性を評価することは決算作業の一部に組み込まれていることが多く、在庫管理担当者から経理担当者に滞留情報や陳腐化情報等が伝わる仕組みができているが、フィリピンの場合、決算において在庫の評価を適切に行うという慣行はあまりない。このフィリピン人経理担当者も、悪気があった訳ではなく、親会社がここまでシビアに在庫評価を求めているとは考えてもいなかったのだ。
それでは、この親会社が求める財務報告とフィリピン人経理担当者が作成する財務報告のギャップを埋めるためには、どうしたら良いか?これはフィリピン法人経営者の役割・責任である。フィリピン法人経営者はフィリピン人経理担当者が作成した財務報告が会社の事業の実態を表しているか確認する必要がある。仮に、フィリピン法人経営者が対応できないのであれば、このギャップを埋めてくれる会計事務所やコンサルタントを選択する責任がある。

実態を表した財務報告で会社を客観視する

何故ここまでして、実態を表した財務報告が必要かというと、会社の事業に関する意思決定を行うためである。先述の例で言えば、実態を表した財務報告がなければ、赤字の事業を黒字と誤解してしまい、意思決定を誤ってしまう。実態を表した財務報告を利用して、数字で事業の全体像を把握することこそ、前回説明した「会社を客観視する」ということである。
上記の通り、経営者が財務報告に関わることは重要である。適切な財務報告のためには、会社の事業全体の実態を理解していることと、会計の知識の両方がフィリピン法人の経営者に必要である。とはいえ、経理を経験された方以外にとっては、会計や税務は複雑でわかりづらい部分が多いと思う。しかし心配しないでほしい。経営者が抑えるべき財務報告のポイントはいたってシンプルである。

次回、財務報告の見方のポイントを理解していく。

本記事の執筆者
伏見将一(ふしみしょういち)
伏見将一(ふしみしょういち)

ディレクター 公認会計士
2005年太陽有限責任監査法人入所。 上場企業及び外資企業に対する法定監査業務、財務デューデリジェンス業務や上場支援業務等に従事。 2013年から2017年までフィリピン大手会計事務P&A Grant Thorntonに出向。 2017年7月より太陽グラントソントン・アドバイザーズ株式会社にて海外アドバイザリー業務担当。

info@gttaco.com

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